最も多く処方される高血圧治療剤の心筋梗塞リスク
高血圧の治療の基本は、血圧を低下させ脳卒中や心筋梗塞などの心血管病を予防することですが、新薬であるARB(アンジオテンシンU受容体阻害薬)は、従来薬のACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)とともに、血圧低下作用だけではなく、心臓や腎臓などの臓器保護作用があるとされ、ACE阻害薬に比べ咳の副作用が少なく使いやすい高血圧治療剤として、爆発的にその使用量が伸びています。プロプレスをはじめとするARBの総売上は4000億円以上にも及んでいます。
しかし、このARBについては、以前から心筋梗塞を増加させるリスクがあるのでないかとの指摘もあり、「医学のあゆみ」誌(2007年11月10日号)で、桑島巌氏が「ARBとACE阻害薬の意外な効果」と題した論考で、「最近の信頼される総合解析データからは、期待された心保護作用がARBには無く、むしろ害になっている」と注意を喚起しています。
以下はその要旨です。
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ARB(アンジオテンシンU受容体阻害薬)はレニンアンジオテンシン系を受容体レベルでより確実に遮断する薬剤として期待を集めて登場した。ARBを「咳の副作用のないACE阻害薬」と考えている医師が多い。しかし、相次いで発表された大規模臨床試験の結果は、ARBが従来薬のACE阻害薬を上回る心血管合併症予防効果を示さず、それどころかむしろ劣るのでないかとの結果を明らかにした。
両薬剤の違いを決定的にしたのが総合解析(メタ解析)BPLTTCである。BPLTTCは世界各地で行われた、降圧薬に関する大規模臨床試験の結果を総合解析する事業であり、以下のような特徴を有する。
BPLTTCは、WHO(世界保健機関)と国際高血圧学会が中立な立場での解析を行っており、公的要素が強く、試験採択基準や評価項目をあらかじめ明らかにしている。また、総合解析の中には論文で示された数値のみを分析するものもあるが、BPLTTCは臨床試験担当責任者から送付されたすべての個人の生データを使用している点でも正確性が高い。
今回の解析では、ACE阻害薬とARBの血圧低下作用を超えた臓器保護効果に関して分析しているが、 脳卒中に関しては,どちらの薬剤も血圧低下作用に比例した予防効果を示した。一方、冠動脈疾患に関しては,ACE阻害薬が血圧低下作用を超えた予防効果を示したのに対し、ARBでは血圧低下作用を超えた予防効果を示さなかった。むしろ統計学的には有意ではないものの、8%のリスク上昇を示した。両薬剤間の血圧低下作用を超えた冠動脈疾患予防効果の違いには、統計学的に有意差が認められた。以上により、「血圧低下作用を超えた心保護効果」は、ACE阻害剤には有るがARBには無く、両薬剤の心保護効果の違いは明らかであると結論した。
ARBのすさまじい伸長は、わが国の医療がEBM(科学的根拠Evidenceに基づく医療)というよりABM(宣伝Advertisingに基づく医療)と言った方が適切であろう。
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